尾﨑たまき・写真家
尾﨑たまき様(写真家) から沖縄ゼロ | 動物殺処分ゼロ運動に使用する写真を提供していただきました。
白い犬
「あの日」の写真にはいくつもの瞳が写っていました。
「ここから出して!」と必死に訴えるような目でした。
そのなかに、何もかも悟ったような表情でまっすぐ私を見る白い毛の犬がいました。
人間のような顔立ちと、静かな表情が強く印象に残っています。
あまり動いていなかったように見えましたが、よく見ると、その白い犬はどの写真でも不安そうな犬を懐(ふところ)に抱えているのです。
まるで、お母さんが怯える子供を守るかのように、かたらわに寄り添っているのです。
その後、ここにいたすべてのいのちの光が消えました。
狭いガス室の中、大好きな飼い主さんがつけてくれたくびわをして、最後まで迎えにきてくれることを信じながら報われず終わってしまったいのちです。
殺処分機の小窓から撮影した写真には、折り重なって息絶えた犬たちのいちばん上に、あの白い犬がいました。みんなを守っているかのような最期でした。何かを伝えようとするかのように、小窓のほうに顔を向けた姿勢で。
この子は、これから迎える死のことも、理不尽な殺処分のことも、飼い主から捨てられたことも、全て知っていたのかもしれません。
死が直前に迫るなかで怯える子たちを守りながら、私たち人間に何かを訴えていたのではないでしょうか。
まっすぐに見つめるこの子から目をそらさぬように、この子のことは私は伝えなければならない、そう強く思いました。
飼い主を信じながらこの世を去っていったみんなの声とともに、この子の静かな叫びが聞こえてくるようです。
尾﨑たまき・写真家・フォトエッセイ「お家に、帰ろう 殺処分ゼロへの願い」(自由国民社)からの引用です。